大阪手技療法研究会~その治療法の歩み~

当研究会は、約30年前の1985年に“手技療法研究会セミナー”の名称にて発足いたしました。筋を治療対象とした徒手治療手技の研究及び伝達セミナーで,治療手技は徒手による筋に対する圧迫手技、柔捏手技、擦過手技、伸張手技で、治療開始前の検査法から治療効果の判定に至るまでの論理背景は主として筋作用視点の運動学が中心でした。

以後、年々臨床経験を積んでゆくたびに治療手技の更なる進歩や、治療効果をより高めるためには、筋運動学的視点だけではなく、身体筋骨格系構造の“3次元空間での詳細な立体解剖学”や、施行した徒手刺激に対する種々の“生体反応”を理解するための神経系及び循環系生理学の必要性を痛感し、その領域での論理性を深めることであると感じました。筋に対する生理解剖学的視点での観察を重ねるほど、患者さんの様々な症状には実に深く筋肉が関わっていることを実感しました。これは、筋骨格系疼痛のみならず、いままで筋肉と全く関わりのない疾患と考えていた諸々の自律神経症状や内臓機能不全が、筋の異常部位を治療することにより、著しい改善効果がみられた数多くの臨床経験によるものです。その際、大きな特徴として症状発現領域が狭い部位に限局していてもその発現には症状部位に位置する筋だけでなく、多くの複数筋群が関わっているという点です。『眼の病気を治そうとする時、眼は頭についており、頭は更に体についておることを忘れて、ただ眼だけを治そうとしてはならない…』※これは古代ギリシャ医学の大家、ソクラテスの有名な言葉だそうですが長年の臨床経験から、“医療の根源となる概念”だと痛感し、敬服している言葉です。まさしく症状発現領域が狭い部位に限局していてもその発現には症状部位に位置する筋だけでなく、多くの複数筋群が関わっているということです。その複数筋群は症状領域とは離れた遠隔部位にも多く存在しており、いわゆる“関連痛”として、症状領域に存在する“症状主発現筋の痛み感覚の増幅”に密接に関わっていると思われます。

一例を挙げて“側頭領域に限局した頭痛”について言えば、その“症状主発現筋”はその領域に位置する側頭筋と思われますが、その他、頚部領域の胸鎖乳突筋、頭半棘筋、胸背部領域の脊柱筋群、僧帽筋など多数の筋群の異常部位がその頭痛に関わっています。従って効果的な頭痛症状の改善のためにはこれらの領域の筋群にも重点的な治療を施す必要があります。それ故、症状に対しての治療時間が長くかかることも多いですが、これ自体、生理学上さけられないことだと思います。“医術はすべて魔法ではない”ので身体病的組織の治癒にはそのための生理学的な最少必要限度の“治癒反応時間”が当然必要であると考えるからです。

以上の様な過程を経て現在、“我々が行っている治療法”は対処している組織は筋肉であり、その“筋の異常部位に起因する諸症状を改善させる手段”であると確信したことから治療手技の名称を“MT-MPS”と名づけています。英語の Manual Therapy for the  Muscle Pain Syndromeの頭文字をとった名称で日本語名は“筋性疼痛症候に対する治療手技”という意味です。また“AT-MPS”とは同様に英語のAcupuncture  Therapy for the Muscle Pain Syndromeの頭文字による名称で、日本語名は“筋性疼痛症候に対する鍼治療法”の意味です。要約して“MT-MPS”も“AT-MPSも、主として筋肉を治療対象としていますが綿密には手指や鍼を用いて筋や筋膜、皮膚などに的確に物理的刺激を加える治療法です。これらの生体組織に対して適切な物理的刺激を加えた結果、当該組織に分布する触覚、圧覚、痛覚、温度覚などの感覚神経の興奮が脳脊髄の中枢神経系に伝えられ、その入力に対する中枢の反射及び反応を引き出す治療法と考えています。その反射及び反応とは筋緊張の緩和、痛みの軽減、消失、血流の改善その他自律神経機能の調整など“症状の寛解につながる生体反応”です。

従って今後、更により効果的な、的確な治療法の追求とともに筋運動学を柱に運動及び感覚神経系、自律神経系、体液循環系、排泄系などの解剖生理学を充実させ、より着実な基礎医学的論理背景を追求していきたいと考えています。

大阪手技療法研究会 代表 小林紘二
※「血液と健康の知恵」 千島喜久男著から抜粋